横浜国立大学システムデザイン学部の福田淳二教授は、毛髪再生医療における革新的なアプローチを研究しています。その中心となるのは、毛包(もうほう)の再生を促すための細胞外小胞(エクソソーム)の活用です。エクソソームは、細胞から放出される微小な小胞であり、細胞間の情報伝達を担う重要な役割を果たしています。
福田教授の研究では、このエクソソームに毛髪の成長を促進する様々な因子が含まれていることを発見しました。特に、毛包幹細胞から放出されるエクソソームは、毛母細胞の増殖を効果的に促進する作用を持つことが示唆されています。これにより、従来の毛髪再生治療法で課題となっていた効果の限定性や副作用のリスクを低減できる可能性が期待されています。
さらに、エクソソームは比較的安定しており、生体適合性も高いことから、安全かつ効率的な毛髪再生治療薬としての応用が期待されています。教授は、これらのエクソソームを効率的に生成・精製する技術の開発や、頭皮への効果的なデリバリー方法についても研究を進めており、将来的な臨床応用を目指しています。この研究は、薄毛や脱毛症に悩む多くの人々にとって、新たな希望となる可能性を秘めています。
引用:毛髪の再生医療をエンジニアリングしよう!| 横浜国立大学 教授 福田 淳二 先生 | 夢ナビTALK – 夢ナビTALK | 3分で学問を伝えよう。(https://talk.yumenavi.info/archives/2067?site=d)
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横浜国立大学システムデザイン学部の福田淳二教授(福田研究室)は,「毛包(hair follicle)再生医療」の実現をめざし,組織工学・再生医療技術の開発を行っています。以下に主要な研究トピックスと今後の展望をごく簡単にまとめます。
1.毛包オルガノイド(原器)再構築技術
– 毛包の発生過程を模した「原器(オルガノイド)」を試験管内で作り,マウス皮下に移植するときわめて高い確率で毛髪を自立的に形成する手法。
– 真皮乳頭(DP)細胞と毛包上皮細胞を適切な比率で凝集し,3次元マイクロスキャフォールド(コラーゲンゲルなど)上で形態を制御。
2.3Dマイクロスキャフォールドの設計
– 細胞を所定の位置に配置しやすい微小構造(μチャンバーや微細凹凸)の付いたゲル・ハイドロゲル基材を用意。
– これにより,毛包原器の初期形態(細胞間相互作用・毛包部位特異的シグナル伝達)を再現しやすくなり,移植後の毛髪形成効率が改善。
3.低侵襲移植デバイスの開発
– 毛包オルガノイドを頭皮に埋め込む際のダメージを最小化する「マイクロニードル注入装置」や超音波ガイド下注入技術を検討中。
– 将来的には局所麻酔下で10分程度の手技で数十個の毛包原器を同時移植できることを狙う。
4.iPS細胞由来毛包原器の研究
– 自家iPS細胞から真皮乳頭様細胞や毛包上皮細胞を分化誘導し,完全自家由来の毛包オルガノイドを樹立するプロトコルを確立中。
– 毛髪の色や質感も遺伝的にコントロールできれば,多様なニーズに応える再生医療の実現が可能。
5.直面する課題とクリニカル展開
– 真皮乳頭細胞の体外大規模増殖に伴う誘導能の維持
– 毛包-血管・神経の機能的再結合
– 安全性(発がん性)の担保と臨床グレード製造プロセス
– 2024~25年をめどに国内で治験申請を目指し,実際の臨床応用フェーズへ移行予定
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福田研究室のアプローチは,従来の「移植既存毛包を増やす」治療から一歩進み,「試験管上で生体に近い毛包原器を再構築→移植して本物の毛包を作り出す」再生医療です。今後はiPS技術との融合や低侵襲デバイス開発を加速させ,数年内のヒト臨床応用をめざしています。